- 2026年9月27日
- 2026年9月30日
ネットの「お札追跡ゲーム」がパンデミックを救う物語

Natureの論文にもなったこの物語の始まりは1998年にアメリカで開設された「Where’s George?」という個人ウェブサイトです。手元の1ドル札に印字されたシリアル番号と自分の郵便番号を登録し、紙幣の余白にサイト名を書き込んで世に放つと、次にその紙幣を手にした人が再び現在地を登録してくれるという仕組みでした。紙幣をバトンにしたこの追跡ゲームには熱狂的なファンが集まり、全米を旅する膨大な紙幣の記録が蓄積されていきました。
このデータに目をつけたのが物理学者のディルク・ブロックマンたちです。当時は今のようにスマートフォンやGPSは普及しておらず、数万人規模の人間の移動データを収集することは不可能に近いとされていました。しかし「紙幣は常に人間が財布に入れて持ち運んでいるのだから、紙幣の移動軌跡こそが人間の移動データそのものではないか」と彼らはひらめいたのです。
研究チームが約46万枚におよぶ紙幣の旅路を解析したところ、人間の移動はレヴィ飛行と呼ばれる法則に美しく従っていることが判明しました。 普段の私たちは、近所のスーパーや職場など狭い範囲をぐるぐると行き来しています。しかし、ごくまれに旅行や出張などで何千キロも離れた都市へと一気にジャンプする。直感的には当たり前にも思えるこの人間の気まぐれな足取りが、実は極めて精緻な数式で表現できることが明らかになったのです。
そして、この発見が真価を発揮したのが感染症の流行予測です。ウイルスは人間が移動することで運ばれます。人間の移動パターンが数理モデル化されたことで、新型インフルエンザなどのパンデミックがどの都市へ、どれほどの速度で拡大していくかを高精度にシミュレーションできるようになったのです。 我々が気づいていないだけで日常に転がる何気ないデータの中にこそ、世界を解き明かすヒントが眠っているのかもしれません。
https://www.nature.com/articles/nature04292
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この記事の監修医師
・上飯田ねむの木こころクリニック
・院長 桑原 高史
・名古屋大学医学部 卒業
・精神科専門医・指導医
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