- 2026年1月25日
源氏物語に描かれた精神疾患

『源氏物語』第31帖「真木柱」には精神疾患と思われる症状に苦しむ女性の姿が描かれています。古典文学に描かれた記録は医療の歴史を振り返る上で貴重な資料なのです。
髭黒大将が新しい恋人・玉鬘のもとへ出かけようと着物に香をたきしめていたときのことです。妻である北の方は突然、火取りの灰を夫に浴びせかけました。周囲の女房たちは「物の怪がこうさせるのだ」と北の方をいたわしく思います。
すぐに僧が呼ばれ加持祈祷が始まりました。しかし北の方に憑いた物の怪は激しくわめき続けます。僧たちは物の怪を追い出そうと北の方を引き回し、打ち続けるという荒々しい治療を行いました。ようやく明け方になって北の方は静かになったのです。
北の方は生まれつき物静かで気立てがよい性格でしたが、時々狂乱することがあったと物語には記されています。ここ数年、普通の人のようではない状態が続き、部屋は乱雑で汚れ、正気を失う時が多く、夫婦仲も長らく離れたままという状況でした。
突発的に粗暴な行動に出ること、数年来の経過、日常生活の障害など、現代医学の視点から見ると重篤な精神疾患の特徴と一致します。 平安時代、精神疾患は物の怪による憑依として理解されていました。医学知識が未発達だった当時は病気の原因は怨霊や物の怪の仕業と信じられ、治療法は加持祈祷が中心でした。この場面での引き回し、打ち続けるという荒々しい対応も物の怪を調伏するための当時の医療行為でした。現代から見れば異様な処置ですが、当時の人々は真剣だったのでしょう。
上飯田ねむの木こころクリニック(仮称)
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